北竜町農家のなんとなく

北海道北竜町の農家がほそぼそ考えたこと。

矢野絢子さん『てろてろ』〜ラブソングにとどまらない物語

【前回のなぞなぞ】

あるもので遊ぼうと友達を誘ったら、OKしてくれたよ。だけど、すぐに用意したら、今じゃなくて後でやるもんだと勘違いしてたみたい。いったいなにで遊ぼうとしていた?

 

答え:囲碁(「以後」やろう)

 

 復活早々に、需要のない、曲の感想の記事です。(なんだか北竜ポータルに出てしまうのが申し訳ない。でも書きたいから仕方ない。)

 矢野絢子さんの代表曲は、と問われると、まず間違いなく挙がるであろう曲がこの『てろてろ』です。

てろてろ

てろてろ

 「てろてろ」というのは、創作の擬態語で「てくてく」と「とろとろ」の中間くらいの速さを表しているそうです。(ライブで御本人の口から説明されるまで、私もなんとなくの雰囲気でしかわかりませんでした。)一見、ラブソングに思えるのですが、私には胸の内を音楽に乗せたものでなく、一つの物語として聞こえてきます。

 「知らないとこに行きたいな」という印象的な歌い出し。美しく情景を描きながら、とても素直で、誰の頭にもすんなりと入る歌詞で歌い上げられます。高知には行ったことがないのですが、この詩から山村のような、有り体に言えば田舎の情景が思い起こされます。

 ですが、それと合わせて語られる言葉から起こる心情は、皆さん様々なのではないでしょうか。それは、続く「嘘だよ ほんとうはね ここにいたい ここにいたいんだ」というフレーズ。どことない幼さを孕んだ美しい言葉選びで、複雑な胸の内を表すこの一言。この洗練された言い回しに、深い感銘を受けました。この、「嘘だよ」の一言が、この曲をラブソングではなく、物語たらしめていると感じるのです。

 なんだか機微のない雑なものいいで申し訳ありませんが、私には聞き手によって、違う物語があるように思えます。例えば、彼(彼女かも?)は、それぞれの言葉を「君」や誰かに語っているのか。それとも自問しているのか。本心で「嘘だよ」と語っているのか、そう伝えているだけなのか。これだけでも場面は違うものに見えてこないでしょうか?皆さんはどう聞こえたか、とても気になるところです。

 町の美しい情景や「夜には泣きそうになっても」という時間の流れ、そして間奏を経て、こんどはこの言葉が畳み掛けるように繰り返されます。ここでは、同じ言葉でも前半とは違う場面が思い起こされないでしょうか?私には、この矛盾するような二つの思いはどちらも掛け値ない本心なのではないかという、迷いとも違う複雑な感情を感じます。

 そして、どこまでも真っ直ぐな言葉でサビが歌われます。この相反するような二つの思いが心の中にあることを語ったからこそ、シンプルなサビ、大サビが大きな意味を持った言葉に感じるのだと思います。

 「街灯の明かりが星の光を消しても 傾いた夕陽は 本当に素晴らしかったよ」という情景も、矛盾する心と、その根底にあるサビのフレーズを重ねているかのように鮮やかです。

 

 大サビの繰り返しが大変ドラマティックなこの『てろてろ』。矢野絢子さんの曲は、この繰り返しの技法がよく使われているようです。他のアーティストにも当然見られるものですが、歌声の力強さも相まって特に効果的に感じる特徴の一つです。そして、その繰り返しに思いを込める為に尽くされたような言葉の運びが、とても素晴らしい。この『てろてろ』は、そんな魅力が詰まった、まさに代表曲と言えるものだと思います。

 是非聞いて見て下さい。閲覧頂きありがとうございました。

 

 

 【今日のなぞなぞ】

 店員さんがずーっと「ルルルルル………」と非常に激しい様子でまくし立てているチェーン店ってどーこだ?